とある騎兵の軌跡

不足しがちな物資。
出世の見込めない任地。
一歩足を踏み外せば命を落としかねないこの島で、どう士気を保てというのだろう。
──そう辟易しながら哨戒任務にあたる心は、朝ぼらけの雲海にいともたやすく奪われたのであった。

 

 

近頃、同僚の様子が変だ。
赴任した当初は僻地に飛ばされたと嘆いていたのに、このところ妙に張り切っている。
一体どういう心変わりか奇妙に思い尋ねると、この地の美しさに心奪われたのだと照れくさそうに打ち明けられた。

なるほど、と彼の横で空を仰ぐ。
──今日の雲海には、霊風が吹いている。

 

 

確かに見たのだ。雲海を行く飛行物体を。
私は職務を全うする為、”何か”の正体を探らねばならない。
雲海を深く愛する私だけが異常を感知したのだ。

それにしても。 妖艶な光が脳裏に焼きついて離れない。
雲海を悠々と泳ぎ渡る怪しくも美しいそれに再び出会いたい。
一体どこに。どこに。どこに。

 

 

同僚が姿を消した。
雲海に垣間見たという飛行物体に魅入られ、正体を突止めたいと譫言のように繰り返していた様が思い出された。
巨鳥の類ではと取り合わなかった事が今になって悔やまれる。
私は焦りを抑えて彼の行方を追った。

──そして邂逅した醜く悍ましいそれに、私は目を見張ることになる。


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