蓮華遊子 – 07

 テンメイを追って公園を後にしたヴァヴァロは、自由市場で食料を買い出すテンメイを手伝った。
 食事の支度をする余裕がある時はゴブリン族が煮炊きに使う広場を借り、持ち寄った食材で調理することもあるのだと教えると、テンメイもそれに倣うことにしたようだった。
 日暮れ頃に仲間と合流すればそれなりの大所帯になるから、買い込む食料もなかなかの量だ。二人で手分けして煮炊きの広場へと運ぶ途中、テンメイはふと視線を遠くへやった。
「あの子は、先ほどの……」
 視線の先にいたのはチャ・ケビだった。ヴァヴァロたちが公園を後にしてから、それほど時は経っていない。
「ケビちゃんですか? ケビちゃんは毎日、ああして両親の帰りを──」
 膝を抱えて道の隅に座り込み、じっと主門の向こうを見据えているチャ・ケビを見て、ヴァヴァロは口を噤んだ。
「……毎日、ああして両親の帰りを待ってるんです。両親を一番にお迎えしたいからって。ご両親は二人とも冒険者で、でも、もうずっと」
 ヴァヴァロはチャ・ケビの両親を知らない。知っているのは、二人が冒険者で、リスキーモブの討伐に出たまま長らく帰ってきていない、ということだけだ。
 自警団として低地ドラヴァニアを巡邏していれば、時に遺体を回収して戻ることもある。だがしかし、彼女の両親らしき人物と行き合ったことも拾ったこともなく、他の者からも目撃情報は挙がらない。だから安否は不明なままだ。だが冒険者が、ましてや子を持つ親が戻らないということは──そういうことなのだろう。
 以前は両親の帰りを楽しみに待っていたチャ・ケビの顔から笑顔が減って久しい。街の者はこの健気な少女をなにかと気にかけているが、誰も彼女が真に望むものを与えてやることはできないのだ。
「気の毒なことだ……」
 テンメイが小さくため息をつく。ヴァヴァロもまた、やるせのない思いに小さなため息を漏らした。

 

 食料を煮炊きの広場に降ろし、できる範囲で食事の下拵えを手伝ったヴァヴァロは、直に到着するという仲間の連絡を受け、エーテライト・プラザまで足を運んでいた。
「おーい、ヴァヴァロー!」
「──ノギヤさん、ファロロさん!」
 そわそわと仲間の到着を待つことしばらく、転移魔法で姿を現した二人にヴァヴァロは駆け寄った。
「ごめんごめん、やっと合流できたよ。お待たせ!」
「よかった、出立前に合流できて。そっちの仕事はどうだった?」
「それがさー、報酬はまー悪くなかったんだけど、組んだ人たちとぜーんぜん息が合わなくて、ちょっと大変だったんだよねー。あたしがっていうよりファロロが、なんだけど」
 ノギヤがちらりと視線を送ると、それまでむすっと黙り込んでいたファロロはさらに眉尻を吊り上げた。
「ほんっと、最近の冒険者はどうなってるのかしら。後続を忘れて敵に突っ込んでいく剣術士やら癒しの力をろくに使わない幻術士やら。よく今まで生き残ってこれたものだわ。本職の幻術士より、あたしのほうがよっぽど治癒魔法を使っていたわよ、まったく!」
「あはは……お疲れさまでした……」
「ファロロ山がずーっと噴火しっぱなしで、ちょこっと可哀想だったけどね。ちょこーっとね」
 大抵のことを笑って流すノギヤがこう言うほどだから、実際はよほど酷い状況だったのだろう。冒険者同士、即席で組むのは日常茶飯事だが、即席だけに上手く連携が取れないのもまた日常茶飯事だった。指導熱心ではあるものの、口調が厳しくなりがちなファロロが烈火の如く怒る様子がありありと脳裏に浮かんでしまい、ヴァヴァロは苦笑を禁じ得ない。
「誰かが言わなきゃ治らないでしょうがっ。最終的に痛い目を見るのはあの二人なのよ!?」
「そーだけどさー。もーちょっと優しく言ってあげたらいいのにー。最後のほう、二人とも涙目になってたし。まだまだ新米だったっぽいじゃん? ところで、アルテュールは?」
「しらなーい」
 肩を竦めるヴァヴァロにノギヤは笑う。
「まーたナンパか。めげないねえ、アルテュールも」
「放っておきなさい。あれは持病よ」
 黒渦団の要請で蛮族拠点の制圧作戦に参加していたという二人の土産話を聞きながら、ヴァヴァロは定宿に二人を案内する。
「──バドマさん、紹介しますね。あたしの仲間で、ノギヤさんとファロロさんです。ノギヤさんは格闘術の、ファロロさんは呪術のエキスパートなんですよ」
 宿でバドマと引き合わせると、真っ先に名乗りを上げたのはノギヤだった。
「イ族チャカの娘、ノギヤだよ。よろしくね」
 名乗る時、ノギヤは父(ヌン)の名まで欠かさずに告げる。霊災で散り散りになった一族の行方を追うためだとは、ヴァヴァロたちだけが知るところである。
「ファロロよ。ヴァヴァロが通信で言っていた人ね? どうぞよろしく。頼りにしているわ」
 二人の手練れを前に、バドマは居ずまいを正しながらも太い笑みを浮かべた。
「ダズカル族ツェツェグの娘、バドマと申す。縁あってヴァヴァロ殿と出会い、此度の亡霊騎士……ペイルライダー討伐に参戦することと相成った。お二方のことはヴァヴァロ殿より伺い、相見える時を心待ちにしておったぞ。よしなにな」

 

 主だった顔ぶれがようやくイディルシャイアに到着すると、ヴァヴァロが参加する自警団を始め、モブハンターの面々、そして腕に覚えのある者達が馴染みの酒場に集結した。
「──おそらく亡霊騎士……ペイルライダーが潜んでいるのは、低地ドラヴァニア哲人街方面、クイックスピル・デルタ周辺です。巧みに気配を隠しているみたいで、発見には至っていないんですけど……」
 卓上に広げた低地ドラヴァニアの地図から顔を上げ、ヴァヴァロはテンメイに助け船を求めた。
 テンメイは重く頷き、言葉を継いだ。
「……まどろむような気配ではあったが、あの近辺を狩場としていることからも、間違いないかと」
「ペイルライダー、黙示の騎士か……。妖異がエーテルを求めて獲物を吸い殺すのはよくある話だけど……ひと纏めにとは、ね」
 ファロロはテーブルに頬杖をついた。
「蒼ざめた馬を駆り、災厄を生き延びた人々に死を振りまく騎士……。伝承にはそう語られるが、あながち間違っちゃいなさそうだな。奥地のあの有り様、流行病で死に絶えた村みてーでよ。ぞっとしねーぜ」
 呟くようなアルテュールの言葉に、ヴァヴァロも哲人街での凄惨な光景を思い返した。生気(エーテル)を吸い尽くされ、枯死した魔物の群──。
 妖異と戦った経験は幾度もある。ペイルライダー以外のリスキーモブを討伐した経験もある。怪力を誇る魔獣を相手取ったこともあれば、狡猾で獰猛な怪物を討ち取ったこともあった。だからこそ、ろくな抵抗も許さず獲物を枯死させるペイルライダーに背筋が寒くなる。
「ただの大型魔獣とは異なるわけか……」
 モブハンターの一人が難しい顔で唸った。今回の討伐に集結したモブハンターの一派、そのリーダー格の男だった。
 場に沈黙が流れる。皆一様に考え込んでいるようだった。
「あのぅ……」
 ヴァヴァロが小さく声をあげる。
「なあに?」
「妖異がヴォイドから渡ってくる時って、ヴォイド……クラック? を通ってくるんですよね?」
 おずおずと尋ねるヴァヴァロに、ファロロは頷く。
「そうね。と言っても、ヴォイドクラックは小さな次元の裂け目に過ぎないから、せいぜい低位の妖異が通るので精一杯のはずだけど……」
「でもペイルライダーはきっと、そんな低位な妖異でじゃないと思うんです。ええと」
 上手く言葉がまとまらず、困ったようにテンメイを見上げた。
「……刹那に向けられた殺気は尋常なものではなかった。隠遁しながら狩りを行う狡猾さは、それなりに高位の妖異のものかと」
「そうよね……」
 テンメイの言葉に、ファロロはため息をついて額を押さえた。
「そんな妖異が小さなヴォイドクラックでこっちに渡ってこられるんでしょうか?」
 ヴァヴァロの疑問に、ファロロはしばし考え込む。
「シャーレアン人の依頼では、ペイルライダーは第七霊災で蘇ったと推測されているのよね?」
「そう聞きました」
「第七霊災の衝撃で生じた裂け目が、自然発生した裂け目より大きかったせいで、ペイルライダーを通してしまったのかもしれないわね」
 ヴァヴァロたちが生きるこの世界と異界はヴォイドは、隣り合うかのように近しい存在だと言われている。故に、強力なエーテル放射などで二つの世界の境界に裂け目が生じると、妖異がこちらへ渡ってきてしまうのだ。エーテルを求め、エーテルが枯渇している異界ヴォイドから、エーテル豊かなこの世界へと。
「第七霊災に乗じて渡ってきた妖異が、何年もこの土地に潜んでたってことか……?」
「そうでなければ狂信者が門を開いて召喚したか……。いずれにせよ、顕現してしまっている以上、打ち滅ぼすほかないわ」
「はい」
 毅然と言い放つファロロに、ヴァヴァロは背筋をしゃんとする。
「もしかしてさ、最近になってようやく目撃情報が出たのって、イディルシャイアが賑わってきたからじゃない?」
「え?」
 それまで軽食をつまみながら話に耳を傾けていたノギヤは、手にしたパンの一欠片を口に放り込むと、考えるように視線を天井にやった。
「だってほら、高位の妖異なら小物よりよっぽど大食らいだろうから、ちょっとエーテルを喰べたくらいで満足しないっしょ? とはいえ狩場を移すほど獲物のいない土地柄でもなし、体力温存しつつ潜んでたらイディルシャイアに勝手に人が集まり始めてさ、こりゃいいやって起き出してきたとしても不思議じゃないと思うんだよね」
「そんな……」
 もとよりシャーレアン人に放棄された土地。第七霊災でペイルライダーがヴォイドから渡ってきたというのなら、霊災の後にイディルシャイアに集い始めた人々は、のこのこと縄張りにやってきた、格好の餌食にほかならない。
 ノギヤの言があながち間違いでもなさそうなだけに、ヴァヴァロは言葉を失ってしまう。
「大型魔獣との戦いはそれなりの場数を踏んできたが、大物の妖異となると、俺たちのところじゃ相手にしたことのねぇ類の獲物だな……」
 リーダーの男が眉根を寄せた。力があるのも厄介だが、なによりも知恵があるのが恐ろしい。
「蒼ざめた馬を駆る騎士、と言ったか。軽装の騎兵であればその機動力が脅威となるが……。話を聞くに亡霊騎士……ペイルライダーとやらは、重装の兵(つわもの)のようかの?」
「そうね。過去にペイルライダーと類似した妖異がいなかったわけではないし、十中八九、首なし騎士の類でしょうね」
 バドマの問いにファロロが答える。リーダーの男はふむ、と顎をさすった。
「イシュガルドの騎兵を相手取るイメージかね。それならやりようがあるか……」
 バドマは頷く。
「妖となれば奇妙な術も使うであろうが、騎兵を相手取るつもりで臨むのが常道に思われる。彼奴の縄張りは背後を崖や洞窟に囲まれ地形、おまけに丘を下った低所じゃ。地の利はこちらにあると考えてよかろう。相手が一騎に対してこちらは多勢。陣の突貫に警戒し、彼奴をあの浅瀬に押し込め、数を頼りに一気に仕留めるのがよかろう。問題は……」
「洞窟に逃げこまれるときついな……」
「それなら、洞窟に結界を張るわ。急場凌ぎに過ぎないから長持ちはしないでしょうけど、退路を断つには充分のはずよ」
 これにはファロロが答えた。リーダーの男は頷き、再び眉間の皺を深くする。
「例のエーテル喰いってのには、対処できるもんなのかい?」
「少しでも奇妙なそぶりを見せたら封じてはみるけど、さすがに手が回りきらないかもしれないわね……。ほかに魔法の腕に覚えのある人はいないかしら?」
 酒場に集った人々の中からぱらぱらと手が挙がったが、全体を支援するには心もとない人数だった。どうしたものかしら、とファロロは考え込む。
「エーテル喰いに関しては、私が皆さんの援護に回ります」
 エミリアの静かな、それでいて毅然とした言葉に、一同の視線が彼女に集まる。
「この人数よ、支援しきれる? 出立を遅らせてでも、魔道士を集めたほうが良くはないかしら」
 エミリアの白魔道士としての腕をよく知るファロロだが、彼女が矢継ぎ早に戦いへ身を投じていることを思うと、素直に歓迎できなかった。
「魔法障壁を展開させれば、ペイルライダーからの干渉はそれなりに防げると思うから」
「……でも、この人数よ?」
 ファロロの心配とは裏腹に、エミリアはなぜかきょとんとする。
「……? うん、任せて?」
 平然と答えるエミリアに、周囲の人間はぽかんとさせられてしまう。
「……相変わらずだな、エミリアさんはよ……」
 アルテュールの呟きに、ヴァヴァロもつい大きく頷きそうになった。
 我らがエース、光の戦士は、たまに呆れ返るほどの頑強さと不撓不屈の精神を発揮するのだ。
 ゆるやかな衝撃が場を去るのを待ち、ヴァヴァロはあのぅ、と手を挙げた。
「あたしたちが遺体を発見した現場では、争いの形跡は見られなかったんです。抵抗もできないまま枯死させられたようにしか見えなくて。それって、ペイルライダーは存在するだけで周囲のエーテルを吸い上げる危険な奴ってことじゃ……?」
 ヴァヴァロの疑問に、エミリアはしばし考え込んだ。
「もし存在するだけでエーテルを吸収してしまうような存在だとしたら、今ごろ辺り一帯、死の大地になっているだろうから、ペイルライダーがいくら強大な妖異でも、そこまでの力はないんじゃないかな。蛮神ならまだしもね」
「ああ、そうか……」
「何らかの手段で無抵抗にしてからエーテルを吸収したんだと思う。防げるものは防いでみるね」
「は、はい! お願いしますっ」

 

 エミリアの凛とした笑みにヴァヴァロは身を引き締めた。
 それからしばらく作戦会議が続き、ペイルライダー討伐に向けての方針が固まった。
 前衛でペイルライダーを浅瀬に封じ込め、魔道士たち後衛でそれを援護する。残る者で電光石火の攻撃をペイルライダーに浴びせる──。
 つまるところ、作戦としてはほかのリスキーモブを狩る時とほぼ同様のところに落ち着いた。ペイルライダーが獣のそれとは違う狡猾さを持つ獲物ゆえに、今までの狩りに比べて大掛かりではあるが、方針が確定と共有を終え、ヴァヴァロはひとまず胸を撫でおろした。
 この場は解散となり、思い思いに散っていく人々を見送りながら、ヴァヴァロは傍らに立つバドマが目を細めていることに首を傾げた。
「──バドマさん? 笑ってるんですか?」
 ヴァヴァロと同じように人々を見渡していたバドマは、言われて初めて自分が笑んでいることに気がついたようで、ちらりと苦笑して肩の力を抜いた。
「久方ぶりの大捕物じゃからな。我知らず胸を膨らませていたようじゃ。──よくぞこれだけ、方々から人が集ったものじゃ」
「そうですね。みんなが来てくれて、よかった……」
 バドマのように笑う余裕はまだ持てないが、集った人々の存在は心強かった。
「ああ、でも、ミックとイェンさんがいてくれたらなぁ……」
 手近な椅子に腰を下ろし、ヴァヴァロはため息をつく。
 ミックのナイトとしての戦技も、イェンの召喚士としての見地も頼りにしていただけに、二人の不在はヴァヴァロにとって痛手だった。
「今回は二人とも間に合わなさそうね……。──ああ! 久々に思いっきり戦えると思ったのに」
「すみません、魔法絡みになると頼りきりで……」
 嘆くファロロに、ヴァヴァロは申し訳なさそうに笑って人差し指の先を合わせる。
 黒魔法はもとより破壊の魔法。その使い手たるファロロは戦いの中でその技を振るい、磨き、自己を高めることを命題としている。……のだが、本人の意志とは裏腹に、あるいは世話焼きな性格が災いしてか、なかなかその機会に恵まれないのであった。
 今回のように魔道士が少ないと前衛の支援に回らざるを得ないことも多く、ファロロとしては不本意であろう。
 大きく肩を落としていたファロロはキッと顔を上げる。
「もう、謝るくらいなら少しは魔法も学びなさいってずっと言ってるのに、ちっとも聞きやしないんだから。せっかくの才能を活かさなくてどうするの」
「あう」
 ヴァヴァロには幻術の才能がある。周りの者はそう言って学ばせようとするが、当のヴァヴァロにはその実感も興味も薄い。
 ヴァヴァロの母はたしかに優れた幻術士だった。母の面影を求めて学びたい気持ちがないわけではないが、どうにも魔法の修行は性に合わず苦手なのだ。
「なんだぁ、ファロロの奴。荒れてんなぁ」
「ここんとこ新人のお守りばっかで、なーんも黒魔道士っぽいことできてないもんね」
 ノギヤはのんきに笑う。
 ヴァヴァロに矛先が向いていたファロロの嘆きはアルテュールに飛び火した。
「あんたもよ、アルテュール。結界術って言ったらシェーダー族の十八番じゃないの」
「そんな大昔のご先祖様のこと言われてもな」
「なんであんたも! ノギヤも! ヴァヴァロも! 才能があるのに学ぼうとしないのよ! 誰も彼も魔法には興味ないとか言っときながら、しれっとエーテルを繰って戦ってくれちゃって! いったい人がどれだけの研鑽を積んでようやく黒魔法を修めてると思ってるのよぉ!」
「どうどう」
 アルテュールが歌う「戦歌」も、ノギヤが練る「気」も、ファロロが習得している魔法体系とは異なるものの、エーテルを操るという点では同様のはずだ。 僧兵モンクとして修行を積むノギヤが「気」と呼ばれる体内エーテルを練り力に転化するのは理解できるが──ノギヤは理屈で説明できないようだが──、アルテュールの「戦歌」に至ってはまったく納得のいかないファロロである。
 旅の道中で、戦場で、あるいは苦境の只中で、アルテュールの歌は仲間を癒し、励まし、奮い立たせてきた。

 アルテュール本人には、古の吟遊詩人たちが吟じた「戦歌」の如く歌っているつもりなどないようだ。しかし彼が奏で吟じる詩歌に不思議な力が宿るのは確かで、ゆえに彼は正しく吟遊詩人なのであろう。
 本人たちに己の技を解説させようとしても、ノギヤは感覚的すぎ、アルテュールに至っては「歌ってそういうもんだろ?」「魂で歌ってるんだよ、魂で」と解説を放棄する始末。日々弛まぬ努力で呪術士として、黒魔道士として腕を磨いてきたファロロにとって、誰も彼も気軽に魔法が如き技を発揮していて、嫉妬と焦慮にかられずにはいられないのである。
「いいわ、ペイルライダーが少しでもおかしな素振りを見せたら、片っ端から術式を潰してやるから。そんでその素っ首、叩き折ってやるんだから!」
「首、ないんじゃないかなあ、ペイルライダー」
 ノギヤの冷静なつっこみに、ファロロはテーブルに盛大に突っ伏した。

 


06 戻る 08