影より出でて(06)
結局、洞窟を抜けた先にぽっかりと広がっていたあの空間はなんだったのか。古い紋様が刻まれた扉の先はどうなっていたのか。
叱責の連続に冒険の高揚感などすっかり萎れてしまい、せっかく見つけたゲルモラの痕跡について祖母に尋ねられたのは、翌日になってからのことだった。
「広場ねえ」
粘土採集の帰り道。
孫の口からぽつりぽつりと語られた奇妙な広場の様子に、祖母は足を止めて思案した。杖に縋ったまま、しばし口を噤む。
「それはもしかしたら、畑か放牧場の跡地かもしれないね」
アルテュリューは首を傾げた。
「放牧場?」
祖母は頷くと、緑の空に目をやる。
「ムントゥイ豆は暗闇でも育つが、他の作物や家畜はそうもいかないだろう。精霊の気に触らない程度の深さに土地を整えて、どうにか日光を確保しようとしたご先祖様の努力の痕跡かもしれないよ」
「ふぅん……」
それまで悄気た顔をしていたアルテュリューは、少し気を取り直した。
たしかにあそこの空は森のどこよりも広かったから、祖母の予想はかなり当たっているように思えた。では、帰り際に見つけた扉横の小さな穴は、家畜用の通路だったということだろうか。いったいどんな動物を飼っていたのだろう。
考え出すと楽しくなってきて、アルテュリューの胸は好奇心に膨らむ。
「探したらほかにも似たような場所がある?」
「かもしれないね。実際、なんのつもりで作ったのか分からない部屋や広場は昔からいくつもあったもんだ。大昔の試行錯誤の名残りなんだろうよ」
性懲りもなく浮き立つ孫を祖母はじろりと睨んだ。
「探しに行こうなんて考えるんじゃないよ。お前だって、誰にも見つけてもらえないような寂しい場所で骨になりたくはないだろう」
出端を挫かれアルテュリューは言葉に詰まる。咄嗟に反論しようとしたが、あの穴の底で味わった途方もない恐怖と孤独感はまだ実感として生々しい。それで渋々、頷いた。
「……もうしない……」
祖母は鼻を鳴らした。
「そうしな。こっぴどく叱られるのも懲り懲りだろう。まあ、ゲルモラを知ろうとするその心意気は感心だがね」
祖母の次なる魔法の手解きは〝魔土器作り〟だった。
土器に紋様を刻み、魔法を封じ込める魔土器。これもまたご先祖様の知恵だから学ぶようにと、森に連れ出されたのが昼前のこと。
無理なく背負える程度の粘土を籠に採り、集落に戻ると今度はそれを天日干しにする。一度乾燥させ、粘土に混ざった草や木の根を取り除くためだ。
魔土器作りの経験こそないものの、日常的に使う土器作りならば、大人の手伝いでアルテュリューにも馴染みがあった。それで祖母の指示を待つまでもなく、日当たりのいい場所にせっせと採ってきた粘土を広げた。背後で祖母が満足そうに鼻を鳴らしたのは、おそらく聞き間違いではないだろう。
「魔土器って、僕ももう使っていいの?」
一通り広げ終えると、アルテュリューは祖母を振り仰いだ。
そもそも魔土器は大人が使うものだ。割れば封じていた魔法が発動するから、「咄嗟の時に」と狩りに赴く大人が懐に忍ばせていくのだ。
逆に扱いの容易さから、子供だけで魔土器を持ち出したり、ふざけて遊ぶのは大人からきつく禁止されていた。不用意に割ってしまうと怪我をする恐れがあるからだ。だから自分が魔土器に触れられるようになるのは、まだまだ先の話だと思っていた。
祖母は片眉を上げる。
「ちゃんと完成させられたらね。ただし、お前が触っていいのは自分で作ったやつだけだよ。納屋の物にはこれまでどおり触っちゃいかん」
「はあい」
以前一度だけ、大人が魔土器を使うところを見せてくれたことがあるが、想像よりも強い威力にひやりとしたのを覚えている。あれ以来、魔土器の納屋には迂闊に近づかなくなったものだ。
それでアルテュリューは素直に頷いた。
粘土の乾燥を待つため、魔土器作りの続きは後日となった。奥の土地、皆が土器作りに使う一角で片付けを終えると、祖母と別れて自宅への短い道を戻る。
洞窟を抜けたあたりで耳に届いた微かな声に、アルテュリューはぎくりとして足を止めた。仕入れのため、早朝からグリダニアへ赴いていた父の声だった。すでに帰宅しているらしく、家からはごくわずかに母の声もした。
昨夜の父の剣幕を思い出し、アルテュリューは首を竦めた。父はまだ怒っているだろうか。今朝見送ったときには厳しい顔のままだったから、顔を合わせたらお説教の続きが待っているかもしれない。
そう思うと怯んでしまって、アルテュリューはそろりそろりと扉に忍び寄った。そっと聞き耳を立て、中の様子を窺う。
『私に?』
初めにはっきりと聞き取れたのは、戸惑う母の声だった。
『君に似合うと思って。……どうかな』
対する父の声は、妙に照れくさそうだ。
アルテュリューは目を瞬かせた。間違いなく両親の声のはずなのに、普段の二人とは雰囲気が異なっているようだった。
『私には可愛すぎないかしら。もう若い娘さんでもないのに』
『そんなことない。初めて会ったときからずっと変わらないよ。今日も、その……綺麗だ』
『あら、上手なんだから。……おかしくない?』
『似合ってるよ。君の髪によく似合ってる』
扉越しに伝わってくる仲睦まじい会話に、アルテュリューはすっかり拍子抜けしてしまう。父が怒っている気配はなかったが、今の二人の間に割り込むのも憚られて、それで扉の前でじっと息を潜めた。
『……いつも苦労をかけてすまないな』
父が声の調子を落とした。
『苦労だなんて、そんなふうに思ったことはないのよ』
『グリダニアを出てしまったこと、後悔していないかい』
『していないわ。だからそんな顔をしないでちょうだい。それに、誰かがやらなきゃ、でしょう?』
毅然とした母の言葉に父が小さく笑う。
『そうだな。うん、そうだ。……君がいてくれて、俺は幸せだよ』
今度は母が笑う番だった。母は面白そうにくすくすと笑う。
『今日はどうしたの? グリダニアでなにかあった?』
『そういうわけじゃ……。ただ、あー、たまにはな? ちゃんと伝えないとなと思って』
話し声はそこで途絶えた。
うっかり盗み聞いてしまった両親の会話に、幼い心はむずむずと疼いた。この感情をなんと表現すればいいのか分からないまま、しかしいつまでも家の前に立っているわけにもいかず、アルテュリューは遠慮がちに扉を開く。
息子が顔を覗かせた途端、両親は抱き合っていた身体を慌てて離した。
「あ、あら、おかえりなさい。おばあさまのお話はもう終わったの?」
「おお、き、今日もおふくろから魔法を教わってきたのか。孝行してるな。感心、感心」
どうやら入るタイミングを間違えてしまったようだ。アルテュリューはもじもじと両親の顔を見比べる。
「……僕、外で遊んできたほうがいい?」
「何を言ってるの。さあ入って。ほら、お父さんにご挨拶は?」
なぜか耳の先を赤くしている母に促され、心構えをする間もなく父の前に立たされてしまう。
「お、おかえりなさい」
父は一つ咳払いをすると、小さくなっている息子に厳格な表情を向けた。
「アルテュリュー。今日は一日、ちゃんといい子にしていたか?」
アルテュリューはこくんと頷く。
今日は日課の掃き掃除をいつもより念入りにしたし、祖母と粘土採取に赴く際も、母にきちんと行き先を告げてから出発した。祖母の嫌味な物言いにもあまり噛みつかなかったし、なるべくいい子にしていたつもりだ。
「昨日のことは反省しているな?」
これにも大人しく頷く。あんなに怖い思いをするのも、あんなに叱られるのも、もう二度と御免だった。
項垂れていると、頭をくしゃくしゃと撫でられた。存外優しいその感触に、アルテュリューはおずおずと視線を上げる。見上げた父の顔には、苦笑が浮かんでいた。
「分かった。じゃあ、アルテュリューにもお土産を渡さないとな」
「お土産? 僕に?」
アルテュリューは目を丸くする。
土産を買ってきてくれることはこれまでにもあったが、昨日のことがあったから、今回はないものだとばかり思い込んでいた。
いったいなにを買ってきてくれたのだろう。甘い菓子だろうか。それとも玩具だろうか。予期せぬ話に、喜びと期待がじわりと込み上げてくる。
「いいか、滅多に買えるものじゃないからな。大事にするんだぞ」
そう言って父が鞄から取り出したのは──一冊の古本だった。
手渡されたそれにアルテュリューはきょとんとする。
「ありがとう……?」
そ れを〝本〟と呼ぶことは知っていたが、実際に手にするのは初めてだった。なにしろ集落の暮らしとは無縁の物だ。文字の読み書きをできる者自体、集落にはほとんどいなかった。
「まあ、よかったわね。なんのご本かしら?」
「んと……」
アルテュリューは貰ったばかりの本を困ったように見つめた。どう扱っていいのかすら分からず、手擦れだらけの本を矯めつ眇めつした末、とりあえず適当に開いてみる。そして現れた文字の羅列に、途方に暮れそうになった。
両親から文字の読み書きを習い始めてはいたが、まだ覚えられていない文字も多い。だから何が書かれているのか、まったく分からなかったのだ。
「この子にはまだ難しいんじゃない?」
息子の横に屈み、一緒に本を覗き込んでいた母は、苦笑して夫を見上げた。
「今日買えそうなのがそれしかなかったんだ。それにほら、勉強になると思って。どうだアルテュリュー、読めそうか?」
父も膝をつき、息子と視線の高さを同じくする。アルテュリューは改めて本の表紙と向き合った。
「えと、い……あお……じあ……」
表紙に記された題をどうにか読もうとするが、すぐに詰まってしまい、ため息をついた。
「エオ?」
横から母の助け舟が入り、「あっ」と小さく声を上げると、もう一度、挑戦する。
「えお……えおる……ぜあ……き、こう……?」
辿々しいながらも読み上げた息子に父は破顔した。
「読めたじゃないか。大したもんだ。父さんなんて大人になってやっと覚えたくらいなのに」
ぐりぐりと頭を撫でられ、アルテュリューははにかむように笑んだ。「えおるぜあ」の意味も、「きこう」の意味も分からなかったが、褒められるとやはり嬉しいものだ。
母も微笑むと、息子の肩を優しく抱く。
「面白そうね。いろんな国を旅した人の日記かしら。さ、続きは座って読みましょうね」
「うん。あ」
食卓へと促す母を見上げ、アルテュリューは首を傾げた。
「それもお土産?」
息子に尋ねられ、母は「ああ」と後ろで纏めた髪に──髪飾りに触れた。
「ええ、お父さんが買ってきてくれたの。……おかしくないかしら」
小ぶりなスズランの髪飾りだった。いつも上品なシニヨンに纏められている母の蜜色の髪を、連なったスズランの白が可憐に彩っていた。
「おかしくないよ。お母さん可愛い」
アルテュリューは無邪気に笑う。息子に同調するように父も横でうんうんと頷いた。
「そう?」
母は恥じらうように目を伏せた。
その日以来、母は夫からの贈り物でささやかに髪を飾るようになった。義姉の変化に目敏く気づいた叔母が嫉妬するものだから、たまに身につける程度だったが。
「自分には何もないのか」と叔母に迫られた叔父が父とグリダニアに向かったのは、また別の話である。
***
「小川のところで遊んできます」
柔らかな木漏れ日が心地良い昼下がり。
父が縫ってくれた革の鞄を肩から下げ、店番をしている母に声をかけると、アルテュリューはいそいそと小川へ向かった。
鞄には、モーグリに貰った宝石と、父がくれた古本。少しだけはみ出してしまうが、お手製の杖も。
しばらく会えない間に、友達に見てほしい物、聞いてほしい話が増えていた。今日は会えますようにと、弾む気持ちが自然と足を急かす。
そして小川の向こう、橋の先にソフィアヌの姿を見つけると、アルテュリューは頬を紅潮させた。
「アルテュリュー君!」
声を上げたのはあちらが先だった。アルテュリューに気がつくなり、橋の不気味な軋みなど意に介さず、ソフィアヌは跳ねるように橋を越えてくる。
「今日も会えないかと思ってた。久しぶりだねっ」
「うん、久しぶり、ソフィお姉ちゃん」
ぎゅっと両手を握られ、アルテュリューは喜びを噛み締めるように微笑んだ。友達が自分を待ってくれていた、それがなによりも嬉しい。
「その鞄どうしたの? これからどこかお出かけですか?」
握ったままの両手を左右に広げ、ソフィアヌは楽しそうにアルテュリューの装いを眺めた。いつもは手ぶらだから、不思議に思われたのだろう。
「あのねっ、今日はソフィお姉ちゃんに見てほしいものがたくさんあって」
「なになに?」
アルテュリューは声に興奮を滲ませながら、まだ自分の身体には不恰好なほど大きい鞄を漁る。すぐに緑の宝石を探り当てると、ソフィアヌの前に差し出した。まずはやはり、これからだろう。
「見て。これ、モーグリがくれたの」
きょとんと目を瞬かせたのも一瞬、ソフィアヌは込み上げてくる感激に目を煌めかせた。
「モーグリ? モーグリに会ったの!?」
前のめりに尋ねられ、アルテュリューもこくこくと頷く。
「前に二人でモーグリを探したの、覚えてる? あのときのモーグリとね、山の中で会えたんだっ」
「すごい、すごーい! なんで、どうして? どうやって会ったの? 前はあんなに探しても会えなかったのに!」
「うん、あのね、この間──」
山の中にある洞窟に遊びに行ったこと。洞窟を抜けた先で帰れなくなってしまったこと。途方に暮れていたらモーグリが助けてくれたこと。少し遡って、祖母に魔法を習い始めたこと。修行の成果か前よりもモーグリの気配に敏感になったこと。帰り道は三人で音楽を楽しんだこと。次に会えるのはいつか分からないこと。その後両親に一生分と思いたくなるほど怒られたこと──。
「いいなあ。私もモーグリに会いたいなあ」
適当な場所に並んで座りながら、熱心に友達の話に耳を傾けていたソフィアヌは、心底羨ましそうに悶えた。
それまで滔々と話していたアルテュリューは、はたと口を噤む。
「ごめんね、僕ばっかり話してて、退屈じゃない?」
今日は自分から話せることがあるのが嬉しくて、ついお喋りが止まらなくなってしまった。せっかく久しぶりに会えたのに、彼女につまらない思いをさせてしまったかもしれない。
「そんなことないよ。アルテュリュー君のお話、知らないことばっかりで楽しい」
ソフィアヌは朗らかに笑う。
彼女の反応にほっとすると、まだまだ話し足りないアルテュリューは、今度は鞄から古本を取り出した。
「ほかにも見てほしいものがあるんだ。これね、昨日お父さんがくれたんだけど、グリダニアのことも書いてあるんだよっ」
目の前に本を掲げられ、ソフィアヌは再びきょとんとした。本と友達の顔を何度も見比べると、なにを思ってか、もじもじとする。
「アルテュリュー君、字が読めるの?」
アルテュリューは口元を本で隠した。
「ま、まだあんまり……お父さんとお母さんに教わりながらちょっとずつ読んでて……」
実際に昨日も、自力で読めた単語は数えられる程度で、ほとんど両親の復唱をしただけだった。知らない言葉だらけで、内容もいまいち理解できていない。
「私なんて習い始めたばっかりだよ。道士様はお忙しいから、たまにしか教えてもらえないし」
ソフィアヌの言葉に、今度はアルテュリューが目を瞬かせる番だった。
「道士様に習ってるの?」
「うん。お天気のいい日にね、村の広場に子供を集めて、読み書きとか算術を教えてくれるの。私もそろそろいい年頃だから混ざりなさいって」
アルテュリューは少しだけ考え込んだ。
「道士様って、ヒューラン族のおじさんの?」
「そうだよ。知ってるの?」
意外そうに目を丸くされ、アルテュリューは小さく頷く。瞼の裏に、よく見知った道士の厳しい表情が蘇った。予告なく集落を訪ねてきて、睨めつけるように方々を視察してまわり、決まって森の掟を説いて帰っていく道士。
「たまにうちの集落にも来るから……」
「そっかあ。たまにこっちの方にも出かけていくから、なんの用事なのかなって思ってたんだ。アルテュリュー君たちの集落も見てたんだね」
妙に納得した様子のソフィアヌをよそに、アルテュリューはしばし、黙って唇を結んだ。
「……厳しい人だよね?」
ちらりと友達の顔を窺う。
「そうなの。いつもムズカシイ顔してて、ちょっと怖い」
ソフィアヌはわざとらしい顰めっ面を作り、すぐにくすくすと笑った。
その言葉は少年の心を幾許か慰めた。アルテュリューは肩の力を抜くと、気を逸らすようにぱらぱらと本を捲り、挿絵のある頁をソフィアヌに見せた。
「この本ね、少しだけ絵も載ってるんだ。これは、ええと、ウル……ダハ……の街の絵なんだって」
父がくれた『エオルゼア紀行』はその題目通り、著者が巡ったエオルゼア諸国の旅行記を纏めたものだった。
リムサ・ロミンサ、ウルダハ、アラミゴ、イシュガルド、シャーレアン……。
初めて聞く国名ばかりなうえ、そもそも国とは何かさえ漠然としていたが、章ごとに添えられた各国の街並みのスケッチは、眺めているだけで心が弾んだ。
「なんだかどんぐりみたいなお家だね」
ソフィアヌも本を覗き込むと、ドーム状の屋根が連なるウルダハの街並みを興味深そうにしげしげと眺めた。
「ほんとだね」
二人は顔を見合わせて笑った。
遠い異国の地に思いを馳せながら、ひとしきり取り留めのない会話を楽しんだ二人は、やがて「またね」と手を触り合って別れた。
***
乾いた粘土から丁寧に不純物を取り除き、砂を混ぜ、水と混ぜながらよく捏ねて素地土を作る。それを円く成形すると、ようやく魔土器作りの下準備が整った。
「いいね、ここまでが純粋な魔法のための魔紋だ。それを最後はこう結ぶ。すると魔力を流し込んだ時に、土器の中に魔法が留まるというわけさ。さ、これとまったく同じように彫ってごらん」
一口に魔紋といっても、封じ込める魔法によって紋様は当然異なってくる。突風の魔紋。水流の魔紋。結界の魔紋。目眩しの魔紋──。
数ある魔紋の中から祖母が初歩に選んだのは、目眩しの魔紋だった。
「やってみる」
祖母がすらすらと地面に描いた手本を真似て、アルテュリューは自作の素地土に魔紋を刻んでいく。線を引く。交差させる。結ぶ。それを繰り返す。
黙々と彫り続けるうちに、素地土の表面が複雑な紋様で埋め尽くされていく。
「できた」
ひと通り彫り終えると、アルテュリューは達成感に額を拭った。初めは味気なかった素地土も、こうして紋様を刻んでみると、なかなかどうして魔土器らしい。
魔力を流し込むのは焼成後だそうだから、この後はまたしばらく日陰で乾燥させることになるが、今から試用するのが楽しみだった。
「おばあちゃん、できたよ。どう?」
嬉しそうに見上げられた祖母は、横から孫の手元を覗き込むと、杖の先で無慈悲に間違いを指し示した。
「間違えてるね。やり直しな」
「あれっ!?」
──素地土を一から捏ね直して、祖母の手本と睨み合いながら魔紋を彫り直して。祖母から及第点を得られたのは、三度もやり直してからであった。