君はとっても(03)
6
ヴァヴァロが寝床に忍び込んでくるようになって、一つ気がついたことがあった。彼女と共寝すると、驚くほどよく眠れるのだ。
彼女の身体がとても温かいからか。それとも彼女の安らかな寝息が耳に心地良いのか。あるいはその両方か。いずれにせよ、彼女と身を寄せ合って横になるとぐっすりと──彼女の寝相の悪さに起こされることもしばしばあったが──深く眠ることができた。
一度その状況に慣れてしまうと、まるでそれが初めから当たり前だったかのように日々に馴染んだ。就寝前の彼女との他愛ない会話も、彼女の暢気な寝顔を眺める穏やかな時間も、ないと物足りなく感じるようになるまでいくらもかからなかった。
そして冬が去り、黒衣森がようやく春らしい春を迎えた頃。
その日、明け方の寒さにうっすらと覚醒したアルテュールは、無意識に布団の中で腕を伸ばした。日中は柔らかな陽射しが暖かいラベンダーベッドも、夜になると冬を思い出したように冷え込むこともまだ多かった。
手が空しくシーツを掻くと、訝しんで重たい瞼を薄く開ける。霞む視界に何者の姿も映らず、それでようやく、この日は一人だったことを思い出した。
(ヴァヴァロがいないと寒いな……)
仕方なく、寝ぼけた手つきで布団を身体に掻き寄せる。毎夜ではないにしろ、ぬくもりを分け合って眠る夜に慣れてしまうと、一人の寝床はひどく寒々しかった。
それでも再び眠りに落ちるまで、さほどの時間はかからなかった。しばらく家を留守にしているヴァヴァロが帰宅するのは今日だったか、明日だったか。溶けゆく意識の端で考えながら、アルテュールは小さな太陽を想う。
『──アルテュールまで死なないで』
涙ぐむ彼女にそう訴えられたのは、アラミゴ解放が成ったその夜更けのことだったか。
霊災ですでに帰る故郷もなく。さりとてどこかに根を下ろす気にもなれず。そんな自分に冒険者という生業は都合が良かった。
かつての居場所は冤罪で呆気なく失くした。信頼を獲得しようとする努力はすべて水泡に帰した。それでも胸に刻んでいたつもりの恩師の言葉は、心が荒むにつれ思い出せなくなっていった。
──良かった、と心から思う。あの日──自ら盗人に身を落とそうとしたあの日に出会ったのが彼らで良かったと。そして、そんな自分に真正面からぶつかってくる彼女がいてくれて良かった、と。
若くして父母を亡くし、祖父のもとに身を寄せて暮らしていたというヴァヴァロ。亡き父の背を追って冒険者になったという彼女との賑やかで穏やかな旅路。気がつけば積み重なっていた陽だまりのような時間を夢と現の狭間で想いながら、アルテュールは小さく笑んだ。
(……はやく会いたい……)
「いいかい、分からないことがあったらすぐに連絡するんだよ。リンクパールは肌身離さず持っているようにするからね」
「そんなに心配しなくて大丈夫ですって。ゆっくり羽伸ばしてきてくださいよ」
ケイムゲイムとツェルフアレンを森都の飛空艇発着場まで見送りにきていたアルテュールは苦笑した。
皆が大なり小なり冒険者稼業に復帰できたこともあり、住み込みで家を切り盛りしてくれている二人には、ようやく休暇を取ってもらえることになった。
二人が休暇を取るのは本当に久しぶりだった。気にせず休んでほしいという皆の勧めを固辞し、アラミゴから生還した若者たちの身辺が落ち着くまで、心配して家を離れずにいてくれたのだ。
『ケイムゲイムさん、本当に大丈夫ですから。息子さんにもよろしくお伝えくださいね』
会話を聞きつけたファロロがリンクパール越しにやんわりとケイムゲイムを宥めた。
せっかく古巣の海都や農園で働く息子を訪ねる余裕が生まれたというのに、ケイムゲイムは最前から伝え忘れがないか気にするばかりだ。
「そうは言ってもねえ、まだ本調子じゃない子もいるわけだし。いいかいアルテュール君、まだ冷え込む夜もあるからね。ちゃんと暖かくして寝るんだよ。あと、胃を冷やすようなものをあまり食べないように」
「あい、気をつけます」
なおもうんうんと唸るケイムゲイムの肩をツェルフアレンが叩いた。
「時間だ。行こう」
飛空挺の点検が完了したらしく、係員が搭乗の呼びかけを開始していた。そうだね、と後ろ髪を引かれるように頷いてケイムゲイムは鞄を背負う。
しばしの別れの挨拶を交わし、妻を伴って歩き出したツェルフアレンが振り返る。
「何かあれば、構わず連絡を。根気よく呼び出してもらえればと思う」
アルテュールは笑う。
「本気で困ったら、その時は飛んで会いに行きますよ」
『あ、ケイムゲイムさんたち、いまから出発ですか? 俺、農園まで送りますよ。今日はもうリムサ・ロミンサに宿取ったんで、明日もこっちにいます』
リンクパールの通信に気がついたミックが会話に交ざる。
『いいのかい? 助かるよ。農園まで少し距離があるから』
二人が飛空挺に乗り込んだのを見届け、最後に手を振り交わすと、アルテュールは発着場を後にした。通信に耳を傾けながら、日が傾き始めたグリダニアを行く。
『あれ、ミックもいまリムサ? アタシらもリムサなんだ。一度落ち合おうよ。ご飯でもどう?』
『いいですね。じゃあ溺れた海豚亭でどうです?』
『了解。ファロロと向かうよ。エミリアも一緒でしょ?』
『一緒だよ。皆でケイムゲイムさんたちをお出迎えしよっか』
快活な声はノギヤのものだ。それにエミリアも加わり、通信は和気藹々としたものになる。
「俺はいまから家に戻るよ。必要なモンがあればグリダニアで買っとくけど、今日は皆さんリムサですかね」
『ヴァヴァロは今日帰るって言ってたわよ。イェンは……最後に話した時はどこかに薬の材料を採りにいくみたいなこと言ってたけど……今頃どうしてるかしらね』
確認するアルテュールにファロロは歯切れの悪い返事をする。一同は苦笑した。
『あはは、大丈夫かな、イェン君……』
「どっかで行き倒れてなきゃいいけど」
『まー、何だかんだでいつもちゃんと帰ってくるから、大丈夫でしょ。たぶん』
『だといいんですけど』
通信を終えると、アルテュールはマーケットを物色した。もう二、三日は家で身体を休めるつもりだったから、その分の食糧と、矢の素材の買い出しだ。
自分にも扱えそうな食材を見繕っていると、陳列されていた瓶詰めの一つに目が留まった。ナッツの蜂蜜漬けだ。
瓶を手に取り、アルテュールは目を細めた。
(ヴァヴァロの奴、好きだったな)
彼女が食事を済ませてから帰宅するかは不明だが、腹を空かせて帰ってきたら、トーストと一緒に出してやるといいかもしれない。そうでなくとも、茶請けに用意しておけば喜んでくれるだろう。
買い物を済ませ、東桟橋へと向かいながら、アルテュールは献立を思い浮かべる。ケイムゲイムが焼いておいてくれたパンをトーストに。そこに焼いた塩漬け肉と、固茹で卵か目玉焼き。あるいはムントゥイ豆乳に刻んだ野菜と塩漬け肉を入れて適当に煮込んだもの。
ケイムゲイムに釘を刺されてしまったから、いちおうは食事に気を使うつもりでいたが、あいにく料理のレパートリーは広いほうではない。家に一人だと思うと台所を使うのも面倒で、どうにか炉端で簡単に済ませられないかと思案した。
「おーい!」
ふと聞き慣れた足音がして足を止めた。元気な呼び声をかけられるのと、アルテュールが振り返ったのはほぼ同時だった。
一直線に駆けてくるヴァヴァロの姿をアルテュールは眩しく見つめた。
「おかえり」
「へへっ、ただいま! アルテュールもグリダニアに来てたんだ」
弾む勢いで足元までやってきたヴァヴァロはにこにこと嬉しそうにする。
「ケイムゲイムさんたちの見送りにね」
「あっ、そっか、今日からだっけ。しまった、挨拶しそびれちゃった」
「今日はリムサに泊まるみたいだから、後で連絡してみたらいいさ。ところで食事は? もう済ませた?」
「ううん、家で何か食べようと思ってたとこ。そうそう、それでね」
ヴァヴァロは鞄を漁ると、その奥から包みを引っ張り出す。
「アルテュール、ミントのお茶好きだったよね? ウルダハで売ってるの見かけてさ、買ってみたんだ。後で飲もうよ」
はつらつとした声にアルテュールは微笑んだ。
「……ちょうど良かった。ここにお茶請けがある」
買ったばかりの瓶詰めを見せるとヴァヴァロはとびきりの笑顔になる。
「ハニーナッツだ! やったねっ」
7
家に明かりを灯す。
暖炉に薪をくべる。
二人きりで過ごすには少し広すぎる家の炉端に、暖かな居場所を作る。
湯浴みも済ませ、二人であれこれと言い合いながら調理したほどほどの夕食に腹を膨らませたら、後はもう、穏やかに語らいながら夜を迎えるだけだ。
先ほどまでご機嫌に食後の茶を楽しんでいたヴァヴァロは、いまはアルテュールの膝で上で微睡んでいた。時々はっとして旅の話の再開したかと思うと、またすぐに瞼をとろりと落とす。そんなことを何度も繰り返していた。
膝の上で寝息を立てはじめたヴァヴァロの頭をアルテュールは優しく撫でた。ヴァヴァロはくすぐったそうに口元を綻ばせると、夢現のままアルテュールの胸に額をすり寄せた。
部屋を満たすのは、火が爆ぜる音と彼女の寝息だけ。その安らかな音に耳を傾けていたアルテュールは、何事か寝言をこぼすヴァヴァロに小さく笑い、その無防備な寝顔に頬を寄せた。
「……愛しい太陽……」
囁くような声にヴァヴァロは重たそうに瞼を上げた。眠たげに目を擦り、小さく欠伸をする。
「ごめんね、何か言った? 明日の天気の話?」
寝ぼけたような呂律でぼんやりと笑うヴァヴァロにアルテュールは緩く頭を振った。
「なんでもない。ただ幸せだなと思って」
「うん?」
不思議そうに首を傾げる恋人に目を細める。
「ヴァヴァロとこうしていられて。幸せだなと思ったんだ」
「あ……」
ヴァヴァロは小さく息を呑んだ。一気に目が覚めた様子で、そっと窺うようにアルテュールを見上げた。
「えっと、もしかしてさっき、何か大事なこと言ってくれた……?」
自信がなさそうな声だった。アルテュールはとぼけるように宙を見やる。
「んー、言ったかな、言ったかも」
ヴァヴァロは慌てて膝の上に座り直した。
「あのお、ちょっとうとうとしていたもので、そのお、へへっ、もう一度言っていただけると嬉しいのですが……」
揉み手になってどうにか言葉を引き出そうとするヴァヴァロをアルテュールはちらりと見る。その視線にヴァヴァロは思わず口を噤んだ。
ぐいっと顔を寄せると、ヴァヴァロは緊張で息を詰まらせた。動揺で揺れ動く青い瞳を見つめることしばし、こつりと額を合わせた。
「俺の、愛しい太陽って言った」
「──……!」
ヴァヴァロはときめきに青い瞳を煌めかせた。しばらく唇を噛んでじっと考え込むと、もじもじと指をつつき合わせた。
「た、太陽って私のこと?」
「そうだよ」
「い、愛しいの?」
「うん」
穏やかな声音だった。自分を見つめる赤紅色の瞳をまともに見返すことができず、ヴァヴァロは首を竦める。
「それって、えと、つまり……?」
「あっ、こら。全部言わせるつもりかよ」
アルテュールは軽く上体を離した。その耳の先が赤い。ヴァヴァロも思わず立ち上がりそうになる。
「だだだだって、アルテュールみたいに詩に詳しくないんだもんっ。だからその、もうちょっと砕けた言い方もしてくれると……嬉しいなって……思って……」
尻すぼみになるヴァヴァロを不服そうにしばし見やると、アルテュールは恋人に向き直った。陽の光をたっぷりと吸い込んだ褐色の両手を、自身の灰色の手で包むように握る。
口を開きかけ、少しだけ気恥ずかしそうに笑うと、またすぐにヴァヴァロを見つめ直した。
「愛してるよ。……って、そう伝えたかったんだ」
「──……〜〜〜っ!!」
飾り気のない真っ直ぐな言葉にヴァヴァロは頬を紅潮させた。一気に速まった鼓動のせいか、頭がくらくらと揺れる。返事をしなくてはと思うのに、身体は振り子のように揺れるばかりで、少しも考えを巡らせることができない。
「え、え、え、でも、あれ? 女として意識できないってこの前言ってたのに? さ、最近ちょっとは意識してもらえてるかなって思ってたけど、あれ?」
混乱するヴァヴァロの言葉に、今度はアルテュールが顔を赤くする番だった。
「だから言っただろ、意識できるようになる時間をくれって。……時間をもらったら、そうなったってことだよ」
「だってだって、まだひと月くらいだよ? 好きになってもらえるとしても私、もっとずっと先の話だと思って」
アルテュールはぐっと言葉に詰まった。
「は、早い分にはいいだろっ。もともと知らない仲でもないんだし」
ヴァヴァロは指を絡め合わせ、上目遣いになる。
「私、アルテュールに可愛く思ってもらえるようなこと、なにかした? だって、まだ全然……」
アルテュールは呆れた顔になる。
「はー、したね。めちゃくちゃしたよ。無自覚とは恐れ入るね」
「え、まさか、好きってたくさん言われたから? それだけで? 嘘だあ」
「それ以外にもいろいろ……ああ、もう、あれもこれもだよ」
信じられない、と目を丸くするヴァヴァロの額にアルテュールは乱暴に口づける。そのぬくもりに唇を噛み締め、ヴァヴァロは彼の服の胸元をきゅっと掴んだ。
「私のことが、大事で、可愛い?」
「うん、参った。すごく可愛い」
おずおずと尋ねてくる恋人に微苦笑し、アルテュールはその温かな身体を抱きしめた。彼女の頬を優しく撫で、柔らかな唇に自身の唇を重ねる。
「あう……えへへ……えー? わあ……」
いつになく甘やかな感触だった。未だ状況を呑み込みきれないヴァヴァロは、それでもぼうっと夢見心地になる。
そんな彼女の姿に愛おしさが込み上げてきて、アルテュールは堪らず彼女に頬を寄せた。そうしているとなぜか無性に笑えてきてしまって、一人くすくすと笑い出す。
「な、なになに、どうしたの?」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられながら楽しげに笑われ、ヴァヴァロはわけが分からず困惑してしまう。そんな彼女には構わず、アルテュールはぐりぐりと頬を擦り寄せた。
「ああ! 認めたら気が楽になった。好きだよ、ヴァヴァロ」
「ひゃ、ひゃい」
彼女を愛してもいいのだと。
そう自分で認められると、不思議なほど晴れやかな気分になった。
ずっと相棒としてやってきた、この途方もなく気の合う親友を、何に遠慮することもなく自分は愛してもいいのだ。その気づきは、アルテュールの胸を幸福感で満たした。
気持ちが通じ合っているのなら、彼女の隣にいても、抱きしめても、口づけてもいいのだ。これからも共にいられるのだと、そう望んでもいいのだと。
そこに思い至ると、腕の中の恋人が愛おしくて愛おしくて堪らなかった。喜びはいますべてこの腕の中にあると、そう思えてならなかった。
「困ったな。これからはほかの男に取られないか気を揉まないといけない」
アルテュールに切なく笑いかけられ、ヴァヴァロはそわそわと身体を揺らした。
「ほ、ほかの男の人はどうでもいいってば……」
恋人の言葉にアルテュールは嬉しそうに目を細めた。
至近距離で見つめられ、ヴァヴァロは落ち着かないこと、このうえない。
「そ、そんなに見つめられたら恥ずかしいよ……」
身体を縮めて訴えてくる恋人に、アルテュールは幸せそうに微笑んで首を傾けるばかりだ。
「……俺の太陽。我が心」
「ふえ」
恋人の白く柔らかな髪を愛おしげに撫でながら、アルテュールは詠うように呟く。
「青空を閉じ込めた宝石の瞳の君。ヒマワリのように笑う君」
「ひゃ……」
「君がいない春は冬と同じ。色褪せた景色は……」
「ままま待って待って! 急に恥ずかしいよっ! なになに!?」
ヴァヴァロは大慌てでアルテュールの身体を押し退けた。止めないといつまでも詩を──まるで口説くような詩を浴びせられそうで、目を回してしまいそうだ。
耳の先まで真っ赤にしている恋人にアルテュールは面白そうに笑ってみせた。
「ヴァヴァロだって俺に散々言ったじゃないか、好きだって」
ヴァヴァロはぎょっと硬直した。
「い、い、いまの全部、好きの変換?」
「そうだよ? 今日は伝わった?」
「今日は!?」
仰天して思わず声が裏返る。
今日は、ということは。
いつの間にか同じようなことをされていたということか。それはいったい、いつの話なのか。そもそもアルテュールの突然の──自分にしてみれば突然としか思えない心変わりに、まだ気持ちが追いついていないというのに。
口をぱくぱくさせている恋人の頬に口づけ、アルテュールは楽しそうにその青い瞳を覗き込んだ。
「これでもかってくらい言われたからなー。言われた分は返さないとな? そうだな、君が駆ける姿は──」
「わわわ分かった! 言われまくると恥ずかしいって分かった! 私が悪うございましたーっ!!」
アルテュールが直接的な好意の言葉に慣れていないというのなら。
ヴァヴァロだって詩的な表現にはまるで慣れていない。否、そもそも、意中の相手に好意の言葉を浴びせられることに慣れていない。
思えばこれが初めてで、まさかこんなに居ても立ってもいられない気持ちになるなんて。あんなに気安く好きだ好きだと口走っていた自分がいまになって恥ずかしくて、ヴァヴァロはいっそ消えたい気分だった。
腕の中でじたばたと暴れる恋人にアルテュールは余裕綽々の顔で笑う。
「おかげさまで慣れましたので、俺はもっと言われても構わないよ? ほら、ヴァヴァロの気持ちも聞かせてよ。聞きたいなー、もう一回♡」
「き、急にずるいってばーっ!!」
──冬が過ぎ、春が来る。
賑やかな夜が過ぎていく。
一人では凍えてしまう夜の寒さも、二人ならば暖かい。
夜明けの頃、冷気にうっすらと覚醒したアルテュールは、布団の中で無意識に腕を伸ばした。隣で眠るヴァヴァロの温かな身体を抱き寄せると、ヴァヴァロが何事かぷすぷすと寝言をこぼす。その声に薄く目を開けると、間近に無防備な寝顔が見えた。
アルテュールは小さく笑う。ヴァヴァロを抱く腕に力を込めると、安らかな気持ちで目を閉ざした。